Fly me to the Moon

ってタイトル付けて記事書いてしまった(ついに)

サヨナラショーが映す心象~珠城りょうサヨナラショーに寄せて~

サヨナラショー

トップスターの退団にあたって、その最後の宝塚大劇場公演と東京宝塚劇場公演の千秋楽(とその前日)には、そのスターの思い出の名場面などを綴る「サヨナラショー」が追加上演される。始まったのは1963年の明石照子から。近年は、千秋楽に退団者が紋付袴姿でお客様にお別れのあいさつをするのが恒例となった。

kageki.hankyu.co.jp

 

宝塚歌劇を観に行くだけでなく、出演者に関心を持ったり過去の公演を映像で見たり興味を持って文化を調べたり…というようなことをするようになって3年程が経ちました。

今回、その3年程大好きでいた珠城りょうさんのサヨナラショーを観て初めて、サヨナラショーが何なのかを理解することができたように思います。

 

愛希れいかさんのサヨナラショー

わたしが初めて見たサヨナラショーは愛希れいかさんのものです。

所謂ビギナーズラックだったのでしょうが、劇場で拝見することができました。チケットぴあのゴールドステージ以上でもらえる当選確率UP券を使って宝塚大劇場の千秋楽公演に申込したところ当選しました。当日、劇場改札ではみなピンクのチケット*1を手にピロン!ピロン!*2と入場しているのを見て、自分の手の中にある緑色のチケット*3で入場できるのかと不安になったことを鮮明に覚えています。

過去のブログ記事にも書いていますが、このときは本当に好きと勢いだけある初心者だったので『この愛よ永遠に-TAKARAZUKA FOREVER-』すら歌うことができませんでした。(歌える必要はないんですけど……基本、ヅカオタは歌えますよね……)

愛希れいかさんのサヨナラショーは、美しく、会場いっぱいに彼女への愛が満ちているようで、その神聖な雰囲気は初めて感じるものでした。

一方で、サヨナラショーというものをそれまで全く見たことがなかったわたしは色々と面食らいます。ショーというから、2本立てのときのショーのようなものだと思っていたんですが、個人にフォーカスするぶんショーというよりかはリサイタルみたいですよね。基本的には一曲歌って音楽が鳴りやみ、また音楽が始まって一曲歌うという構成になるので、ぶつ切り感があるなと思っていました。舞台上にそのひと一人しかいない時間も長いので、「宝塚のショー」をイメージしてしまうとすごくシンプルに感じられました。そして一番は、歌っている曲が1/3くらいわからなかったこと、1/3は知ってはいるけどなぜ選曲したのかがわからなかったこと。つまり、わたしは彼女のことをあまりにも知らないのだと思ったのでした。

彼女がここで見せているものをわたしは受け止め切れていない、そう感じて、自分の不甲斐無さがちょっと悔しかったです。

 

サヨナラショーって何だろう

 ところでサヨナラショーって何だろう。定義は、用語解説を読んだからわかったのだけれど、そうでなく、どういう意味を持っているものなんだろうか。それは、大好きだと思っていたちゃぴちゃん*4のサヨナラショーが消化不良のままになったその後からぼんやり考えていたことでした。

2021年の現在、宝塚大劇場東京宝塚劇場の千秋楽はライブビューイング・ライブ配信が実施されることが恒例となっています。特にライブ配信は、時間さえ都合がつけば自宅で見ることができるので「宝塚を一度は見てみようかな」という層も気軽にアクセスできる手段です。なので、「宝塚を一度は見てみようかな」という人がたまたま見た公演がたまたまサヨナラ公演でたまたまサヨナラショーを見ることもあり得ます。

しかし、ライブビューイングにしてもライブ配信にしても、始まったのは近年です。それ以前の長い間は、その最後の一日(またはその前公演を含む最後の2回)に劇場に足を運んだ2千名だけが観ることのできた特別なショーだったのでしょう。

もちろん、そのような特別な日には思い入れたっぷりの観客が押し寄せたはずで、きっとそもそもはそういう人たちに向けて届けられたショーなのだと思います。(特別なショーが付属しているにも関わらず票券価格が同じなのも、そういう成り立ちからではないかなぁと思いました。サヨナラショーは付加価値という性質のものではなく、並々ならぬ思い入れのファンに向けた舞台人からの感謝の形では、と)

それから、そもそも「宝塚のショー」って、という部分にも言及したいと思います。ショーというものは、宝塚歌劇で披露されているものに限らず、歌や踊りや衣装やその肉体や、あるいは照明や音楽や、とにかく眼前にあるもので楽しませてくれるものです。だから何も知らなくても、演者の美しさや芸やあるいは舞台そのものから発せられる煌めきや生命力やとにかくその場で発生しているものを楽しむことができます。

さらに宝塚歌劇では確固たるスターシステムの上「その演者がやる意味」をいかに付与するかという部分も肝要だと思います。スターの得意な分野で遺憾なくその能力が発揮できているか、だとか、はたまた意外性のあるものが見せられるか、とか、スターの経歴やエピソードやそういったものを盛り込んだりもしますよね。歌い継ぎでスターさんの名前が1フレーズごとに盛り込まれているお馴染みの手法も、初めてそれに気付いたときは「すごい!」ってとても興奮しました。

「宝塚のショー」は、眼前で披露されているものをそのまま受け取って楽しめるエンターテインメントであると同時に、出演するスターのバックグラウンドを重ねることでより解像度の上がる仕組みです。サヨナラショーは、その後者の機能を極限まで特化しているものなのかなと思いました。大がかりな装置や派手な装飾のない舞台で、ただ歌い踊る。その歌や音楽の向こう側に、ファンは思い思いに、舞台に乗っかりきらないその背景をも観ている。

珠城りょうさんのサヨナラショーを見て、そのように思いました。

 

珠城りょうサヨナラショー

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M1アーサー王賛歌『アーサー王伝説

…… ♪キーングアーサー♪キーングアーサー♪

アーサー王だ!?)幕開き1曲目に驚きを隠せぬまま、大階段の真ん中に一人立つ珠城りょうさんにピンスポットが当たる。

影ナレ(マーリン)「今こそ、アーサー・ペンドラゴンは本当の王になられた。愛と寛容の精神を持ってこの国を導かれるだろう!」

もう泣いた。そして何と!わたしは珠城りょうさん主演作の中で『アーサー王伝説』だけ見ていません!なぜか。あまりにつらくて手が出せなかったからです。

アーサー王伝説』はトッププレお披露目*5の演目であり海外ミュージカル作品ですが、「アーサー王賛歌」は宝塚で上演にあたり書き下ろされた楽曲です。つまり珠城さんに当てて書かれたものですね。

恐れられる王でなく愛される王に

そして民を愛する慈悲深き君主に

神が決めた定めなら己の孤独を封印し

民のためこの国のため私は生きよう

それが定め 道は一つ

 見てはいないですが「アーサー王賛歌」は知っています。なぜなら感想はたくさん読んだからです。そもそも『アーサー王伝説』のあらすじがまあなんと言うかつらい。感想読む限りでもつらい。しかもこの演目がプレお披露目だと思うとつらいし、「アーサー王賛歌」が研9でトップに就任したばかりだった珠城さんに当てて書かれているのもつらい。これを歌わねばならないのもつらい。というわけで見ていなかった。

いやわかっていますよ!?これは石田先生の愛情だということも、歌詞に書かれているように「こう生きるしかない」とも言える王の姿とは、これは珠城さんがどうこうという話ではなくて、トップスターという立場に求められる性質のものであるということも。それでも、それを宣言させてしまうのか……という重さに足が竦むような感覚で、どうしても見る気になれなかったのでした。

そして冒頭に戻りますが、サヨナラショーの幕開きで泣いたのは、わたしがずっと抱いていたこれらの感傷があまりにも的外れだったからです。彼女はそんな感傷の中には勿論いませんでした。この「アーサー王賛歌」をサヨナラショー1曲目で歌いその宣言を実行したことを彼女は見せたのでした。というより、それを見せるのだ、という意思の方にやられてしまいました。マーリンの台詞が入ったのは珠城さんの希望ということなので、マーリンの台詞に今の自分自身と月組の存在を持って応えたかったのではないでしょうか。

退団発表記者会見の珠城さんは「私は孤独を感じたことはなかった」と言いました。「アーサー王賛歌」の中でそこだけは現実にしなかった、したくないという意思もあったのかもしれません。(もちろん、彼女の周囲の人々が彼女を独りにしなかったということが一番大きいと思いますが)

サヨナラショーでは珠城さんの伏線自力回収力に驚かされてばかりだったのですが、これがその最初です。

 

M2カンパニー『カンパニー ―努力、情熱、そして仲間たち―』

君に出会えただけで幸せだった

この歌い出しは、珠城りょう演じる青柳誠ニが亡き妻ともみを想って歌うフレーズです。これを聴くと(わたしはともみだったのか……)と夢女になってしまうのでした。

そしてサヨナラショーの文脈で歌われるこのフレーズはファンに向けて届けられているとも思いました。また同時に、全く同じことをファンが珠城さんに向けて思うであろうことも。

記憶の中のキミがいつの日にか

とても素晴らしい思い出となり

僕の心照らすよ

『カンパニー』の中のともみさんの存在を考えると、それを逆照射して珠城さんを見るとき、やはりちょっと切ない感じがします。この別れもいつか暖かいだけの思い出に変わっていくのかなぁと思います。でも過去に囚われているわけじゃなくて忘れるわけじゃなくて、この先を生きていく間、何かのときに励ましてくれるような存在が、青柳さんにとってのともみさんではないでしょうか?

 

M3Roses at the station『グランドホテル』

サヨナラショーで殺された人いる?

『グランドホテル』は映像でしか見たことがありません。珠城さんの出演作の中では、劇場で観られなかったことを後悔している作品ブッチギリの第一位です。わたしはサヨナラショーで初めて、男爵が劇場にいるところを観ました。

「Roses at the station」は、劇中と同じく赤い薔薇の花束を抱えて男爵が歌います。

「Roses at the station」から死のボレロは特に好きな場面でBDで何度も見ていましたが、あの赤い薔薇の意味に気付いたのはこのときでした。赤い薔薇の花束は、エリザヴェッタ・グルーシンスカヤと駅で再会するときにそれを持って現れると男爵が約束したもので、それは男爵のありったけの愛そのものだったはずです。それが、凶弾に倒れた男爵の胸で赤く咲いていて今度は血のメタファーとしてそこにある。この愛と死の表裏を初めて感じることができました。(サヨナラショーでは披露されていませんが、劇中でこの後続く死のボレロも愛と死が同じ顔をして男爵のもとにやって来るのが好きです)

劇場では見られなかった『グランドホテル 』から、サヨナラショーをきっかけに新しいものが得られたことをとても嬉しく思っています。

 

M5ブロンド『I AM FROM AUSTRIA―故郷は甘き調べ―』
M8ラ・ベル・エポック・ド・パリ『ピガール狂騒曲』

美園さくらさんのソロ曲と、彼女を軸にして暁千星さん(ありちゃん)・風間柚乃さん(おだちん)の3人で歌う曲、この曲を持つ二作は、それぞれ「女性/女の子が主人公の主体的な選択のお話」だったと思っています。だからそこから、さくらちゃんを真ん中にした場面が作られたのはすごく合っていると思いました。

IAFAのメインテーマ、本公演をやっていた頃よりずっと表現力が豊かになっていて全然聴こえ方が違って驚きました。そしてエマをイメージしたとってもとっても素敵なお衣装!(こちらも薄井香菜先生でしょうか?)エレガントなんですけどキュートでもあるんですよね、これはさくらちゃん自身の魅力でもあったと思います。

「ラ・ベル・エポック・ド・パリ」は、さくらちゃんと関わりの深い二人も登場しますが、特にありちゃんは、さくらちゃんにとっては王子様みたいな人だったのかなぁと思います。ありちゃんがさくらちゃんを見る時の目が爽やかだけど熱っぽくて良かったな。

 

M7同じ星空の下で『夢現無双―吉川英治原作「宮本武蔵」より―』

『夢現無双』『クルンテープ』……わたしにとっては「楽しかった!」と一言で振り返るにはあまりにもいろんなことを感じた公演でした。(でも当時のツイッターのログを読み返したら十分楽しそうではありました。ブランコで登場する全身白のパツンパツンのお衣装のサンバロット様がものすごく好きでした!登場が一瞬なんだけど。)

ひとつは、この公演で美弥るりかさんが退団されること。

これを書いている2021年では、2番手での退団あるいは退団発表が続いています。花組の瀬戸かずやさん、星組の愛月ひかるさん、2番手での退団例はそのお二人の前が2019年の美弥るりかさんでした。しかし、美弥るりかさんの更に前例となると、雪組彩吹真央さんで2010年のことだったようです。

それはおよそ10年ぶりのことであり、月組集合日の退団者のお知らせから東京千秋楽のその日まで、ファン界隈は非常に動揺していたように思います。そしてその動揺はわたしにも強いインパクトとして届いていました。

クルンテープ』では宝塚での初日が開けてすぐの頃に「cha cha SING」が「セ・マニフィーク」に差し替えになったり、オレンジの僧衣が緑色のものに変更になったり、美弥さんのソロ銀橋の曲が変更になったりとなんだかバタバタしているのかな?という印象でした。

東京公演に入ってすぐ、月城かなとさん(れいこさん)が怪我で全日程休演となります。『夢現無双』の代役には風間柚乃さんが入り、『クルンテープ』では場面ごとに代役が割り振られました。当時すでに3番手だったれいこさんの出番は多く、影響は大きかっただろうと思います。

そして東京公演中盤で、デュエットダンス中のリフトがなくなった期間がありました。また、同時期に『夢現無双』では、武蔵が吊られた木から落ちるシーンが暗転に変更になっており、珠城さんも故障があったのだろうと思われました。

なんとなく落ち着かない気持ちで 、それでも一番気がかりだったのは、この公演が珠城りょう・美園さくらの新トップコンビお披露目公演だったことでした。

もちろん、トップコンビお披露目らしく、『クルンテープ』では結婚式のシーンあり、恋物語のように初々しくうっとりするようなお芝居仕立てのデュエットダンスがあったりは!したんですけど!!『夢現無双』のお通、武蔵が変人だった*6せいで、ろくに二人きりの場面もなくパワフルおっかけガールとして終わってしまったり、これは公演と全く関係がないですが、トップコンビお披露目というただひたすらにめでたいはずの時間を、ただひたすらにめでたい気持ちだけで過ごせなかったことがずっと心に引っ掛かっていました。

なので、『夢現無双』からの一曲を珠城さんとさくらちゃんのデュエットソングとして、また新しく振付したデュエットダンスを加えて見せてもらえたことが本当に嬉しかったです。

珠城・美園トップコンビ時代の作品がいくつかある中で、「二人で」歌って踊るのにこの作品を選んでくれたこと、今の二人の幸せな姿で記憶に残ることに胸がいっぱいになりました。

わたしは何やかや、さくらちゃんが幸せでいてくれているのだろうかと心配することも多かったのですが、振り返ってみると、どんなときでも幸せそうにしているさくらちゃんを見ることで救われた気持ちになることばっかりだったなぁと思います。

ところで次のM8へ行くときの、珠城さんがさくらちゃんを銀橋の方に押し出す力が強すぎて笑ってしまうのですが。宝塚千秋楽では珠城さんがさくらちゃんの鬘の髪を撫でたら袖の飾りが絡まってしまいさすがにやや焦りが見えたので(笑)、照れ隠しか何かだったんでしょうか。と思いきや東京でも力が強かったです。(謎)

 

M11クルンテープクルンテープ 天使の都』

順番が前後しますが、前項の続きでもあるのでこちらを。

クルンテープ」はれいこさんが軸となって退団者と一緒に登場する場面です。前述の通り、れいこさんは『夢現無双』『クルンテープ 』の東京公演を途中休演することになりましたが、実は最初はショーのみ休演で『夢現無双』は出演していた期間があったのです。ですから、休演期間として長かったのは『クルンテープ』の方でした。

もしかしたら、このあたりの経緯をご存知でない方は「何でれいこさんクルンテープ?」と思われたかもしれませんが、選曲意図は、彼女があの時の続きを終わらせられるように・今回限りでもう同じ舞台には立つことのない退団者と一緒にやり遂げられるように、だったのかなと思っています。

こうやって時代をひとつ「終わらせる」んだなぁとすごく思いました。

 

M9世界最強のコンビ『幽霊刑事~サヨナラする、その前に~』

「僕たちがタッグを組めば、シティハンターもシャーロックホームズも二流の捜査官だ!」

というのは、『幽霊刑事』をご覧になった方はご存知かと思いますが、上演台本そのままの台詞です。

大劇場サヨナラ公演の直前にバウホールで上演されていた作品なので、この直後に宙組シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-』と雪組CITY HUNTER』の上演が控えている状況そのままサヨナラショーに使えたというわけです。結構ウケてて良かった。

ところでサヨナラショーで幽霊になってる人が爆誕しました。(3曲目で銃殺されていたのは前フリだった?!)(たぶん違います)

突然の小芝居、小気味良い軽妙な台詞の掛け合いで笑わせて空気もフワッと軽くなります。湿っぽくなりすぎない意図かと思いきや、単にちなたまセレクトなのではないか…と思うわたしでした。

『幽霊刑事』は原作では先輩後輩関係だったところを同期の二人とするアダプテーションがあります。珠城さんと鳳月杏さん(ちなつさん)の関係性はむしろ後輩先輩の関係なわけですが、この二人の「似ていて異質」「異質だけど似ている」みたいな、並べたときの化学反応は関係性が緊密であるほど面白いんだと思うんですよね。

 

M10花のうた『月雲の皇子』―衣通姫伝説より―

前奏が入り「穴穂、花がきれいだ」の一言がもう木梨軽皇子様の肉体から発せられた木梨軽皇子様の声で、それに応えるちなつさんももう穴穂で、つい数十秒前にふざけたやりとりをしていたところから場所も衣装も変わっていないのに、作品世界に強く引き込まれてしまいます。

『月雲の皇子』は、サヨナラ公演である『桜嵐記』も手がけた上田久美子先生の脚本・演出家デビュー作品であり珠城さんの初主演作で、珠城さんの宝塚人生の中でもとても大きな作品でもありますね。もしまだご覧になっていない方がいらしたら、是非ご覧ください!*7

「兄上、私は兄上を助けて、この美しい島を強い国にします!それが私の夢。必ず、お力になります!」

穴穂のこの言葉を受けて木梨が歌う「花のうた」、サヨナラショーでは当然この場面だけで終わるので、この木梨と穴穂は運命が分たれることのなかった二人なのかもしれないと感傷的になることくらいは許して欲しいのです。お力になります、という穴穂の言葉が真実になった世界に生きているのは、この世界のちなたまなのかもしれません。*8

 

M12この地上の何処かに『All for One』~ダルタニアンと太陽王

2号セリの真ん中板付きで登場の珠城さん(ダルタニアン)、セリは凸型で使われていました。この、両側に誰も乗っていないセリの真ん中にいる珠城さんを目にした時、両側のセリは宇月颯さん(アトス)と美弥るりかさん(アラミス)に用意されているんだなと直感的に思いました。

実は『All for One』に2号セリでダルタニアンを中心にアトス・アラミスで登場するシーンはありません。

ですが、三銃士ものであるこの作品は「まだ若いトップスターと仲間たち」という当時の月組の状況に合わせて描かれていたこと、また、ポルトス役は珠城さんより下級生の暁千星さんで現在も月組で活躍中のスターさんであることから、両隣の「今はいないけれど、かつてそこにいた」という風な空白に、上級生のお二人を特に想起したのかもしれません。

舞台上にはない風景を見ること、それこそがサヨナラショーの持つ特別さなのかなと思いました。

 

M13明日を信じて『All for One』~ダルタニアンと太陽王

続きまして同じく『All for One』から「明日を信じて」。

先日、東京宝塚劇場20周年記念の各組歴代トップスターの名曲を集めたBDの発売が発表されて、収録曲も既に公開されているのですが、そこに並ぶ作品は当然各トップスターさんの代表作でした。珠城さんは『All for One』、やはり代表作としてはこの作品なんだろうなと思いました。素晴らしい主演作をたくさん持っているのでファンとしては選び難いところですが、ダルタニアンの明るさ・素朴さ・清廉さ・真っすぐさ、それとフィジカルの強さ(笑)、この辺りが男役珠城りょうとしてのパブリックイメージのど真ん中なので選ばれるんだろうなあ、というのは納得します。

たとえこの世が闇に包まれていても

明日は太陽が昇り光浴びる

そう信じて人は生きる

陽の光は等しく当たる

こんな困難な世情で生きていると、歌い出しで否応なくハッとさせられてしまいます。この作品は現在の世情を反映して描かれたものではないけれど、普遍的でいい意味でありきたりで、でもそれを「今ここ」で届ける意味に胸を打たれます。

歌っている人は演技者なので、言葉がその人にとっての真実であれば、聴衆にもそのように届く、そんなシンプルなことで勇気づけられることがあるんだなぁと改めて感じました。

 

M14BADDY『BADDY―悪党は月からやって来る―』

前項で『All for One』が珠城りょうの代表作と言っておいて何ですが、最後は『BADDY』でしょう、そりゃそうでしょう。(あっBADDYだ!と気付いた瞬間の客席、たぶん3度くらい温度が上がりました)

「千秋楽ぅ?冗談じゃねえ!」*9

を合図にサングラスをかけたバッディが暴れます。みんな大好きBADDY!

「邪魔だ、どけ!」

縋りつく組子をひたすらに振り払い蹴飛ばす、先ほどまでの優等生らしからぬ珠城さん。爽快!いやーでも、みんな大好きなのをわかって最後に「BADDY」持って来るのはやっぱり優等生ですかね。

『BADDY』が大好き!と言っていた、上演当時は花組だったちなつさんがバッディの腕をとって自分に巻きつけてうっとりしてるのをペッて引き剥がすあり王子。なぜか光月るう組長は額の汗を拭いてくれようとしているし、夏月都副組長はバッディの頭なでなでしようといるし、その横でれいこポッキーはバッディに頭を押さえつけられてグリグリやられているし、右脚には海乃美月さんファニーが絡みついてるし、股の間からおだちんが這い出て来る。情報量が多すぎないか。

さくらスパイシーは何してるのかと思ったら、後ろの方で(行かないの?)ってやりとりに腕で大きくバッテンつくっていました。行かないらしい。

最後の1曲、ほぼサングラスをかけているので顔が見えないっていうのもわたし的にかなりツボです。

もう泣き笑い、というか、笑い、笑い、笑い。興奮が後を引きました。

まんまと思い通りなんだろうなと思いつつ、こんなにも晴れやかに面白おかしく終われるなんて思ってもみなくて、本当に「楽しかった!」の一言です。

 

 

これにて、わたしのサヨナラショーの思い出は終わりです。ファンの方の目のぶんだけ、サヨナラショーがあるんだと思います。

2021年に書く記事としては説明過多だとは思いますが、宝塚は意外と変化が激しく、当時共有していた情報や時代性なんかはあっという間に失われてしまうというのは、初心者でいろいろ見たり読んだりしているときに思ったことです。何年か後にここにたどり着いた誰かのためにも書きたいなと思いました。

サヨナラショーなので当然、退団公演である『桜嵐記』『Dream Chaser』からは楽曲がないので言及していませんが、まだご覧になっていなかったら超ラッキーなので観てください。よろしくお願いします。

 

 

 

 

*1:劇団直販分のチケット。生徒席含む

*2:劇団直販分のチケットは券面に印刷されているQRコードを端末で読み込んで入場する。読み込むとピロン!と音が鳴る

*3:ファミリーマートで発券したため緑色でした。プレイガイド販売分のチケットの入場方法は半券をモギる。

*4:愛希れいかさんの愛称

*5:トップスターのお披露目公演とは一般的に宝塚大劇場東京宝塚劇場での公演演目を指します。通常はトップスター就任後宝塚大劇場公演の前に主演作の公演が打たれますが、それをプレお披露目公演と呼びます。

*6:朴念仁!無自覚恋心ハンター!童貞!

*7:最下で出演している佳城葵さん(やすちゃん)演じるティコもすごい。演技は才能であることめちゃめちゃ感じてしまう

*8:これは「エモい」と言わずしてエモさを伝えようとしたあまりこのような表現になりました。

*9:各前楽では「天国ぅ?冗談じゃねえ!」

宝塚どこに泊まればいいの問題

こんにちは!

初めての贔屓が宝塚歌劇団をご卒業されてからやっと2週間が経過しようとしている今、明らかに今じゃなくていい記事を書きたくなってしまいました。

それが『宝塚どこに泊まればいいの問題』です。

 

わたしは関東在住で、初めて宝塚大劇場に行ったのは2018年月組エリザベート上演時でした。以降「で、宝塚どこで泊まればいいの?」という問題に解が見つからないままこのような節目を迎えましたが、土地勘のない人間がまず困る宿選びの実録をお届けします。

 

宿選びと一言に言っても、何を重視しているかで選択肢は全く違ってくると思いますので、以下にわたしの宿選びのポイントを記述します。(似たポイントが多ければ、この記事は参考になるかもしれません)

・目的地への近さ

・最寄り駅から迷わないこと

・アクセスは乗り換えが少ないこと

・湯舟には浸かりたい(なので阪急のレム系が除外になってしまいます)

・お手頃価格であること

最後の点に関しては、2020年初頭から続くコロナ禍によってホテルの価格帯が大きく変動し、ハイクラスほど従前からは大きい値下げ幅になる一方で、集客を見込むことができた宝塚大劇場周辺のホテルではあまり価格帯の変動は見られませんでした。

そういった特殊事情も含みますので、この記事が5年後10年後に読まれている場合はお役に立てないかとは思いますが、実用記事というよりは旅行記としてご覧ください。

 

宝塚ホテル

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初心者の憧れ、宝塚ホテル。月組の元組長である憧花ゆりのさんが支配人でいらっしゃるので、運がよければお目にかかることもできます。

2020年に移転開業したばかりなので、どこもかしこも綺麗です。やたらシャンデリアがある。お部屋に続く廊下の絨毯の柄は、花組月組雪組星組宙組・専科の各モチーフが隠されていますよ。吹き抜けロビーの2階には、宝塚歌劇の衣装や小物・舞台写真が展示されていて、宿泊者以外も見ることができます。

シングルのお部屋は少々手狭ではありますが、バス・トイレがセパレートでバスタブが大きめなのがわたしには嬉しい点です。テレビではスカイステージが視聴可能で、タカラヅカオンデマンドで配信の番組も無料で見られます!価格帯は、定宿とするには少しお高いと感じます。

一番の利点は、近いところ。正真正銘、宝塚大劇場のすぐ隣です。わたしは幕間休憩にホテルの自室に戻っていました。マチネとソワレを連続観劇をするときも、一旦お部屋に戻って仮眠することもできます。ギリギリまで体力を温存したいソルジャーにとっての兵舎(※私見です)。

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旧宝塚ホテル(閉業)

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今はすでに解体されてしまった旧宝塚ホテル、開業は1926年(大正15年)でした。宝塚大劇場最寄りの宝塚駅の隣、宝塚南口駅に立地していました。宝塚大劇場から旧宝塚ホテルに徒歩で行くためには、武庫川に架かる長い橋を渡らなければいけませんでした。天候が悪いとちょっと大変。でもサンドイッチで有名なルマンの宝塚南口本店が近いので、買い出しに行けばお手頃でお腹いっぱいの朝ごはんに。

施設の古さは否めないものの、もはや完全に味になっていました。クラシックという上等な感じではなく(いい意味で)、ずっとここにあって、ずっと誰かがいたんだなぁと思わせてくれる佇まいでした。増改築が繰り返されたようで、場所によってさまざまな時代を見ることができました。お部屋の備品の年季の入った花柄プリントのごみ箱が印象に残りすぎています。あの場所に行くのに、間に合ってよかったな。

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宝塚ワシントンホテル

ごく普通のビジネスホテルではあるものの、宝塚駅前という立地と価格帯のバランスが取れていて非常に使い勝手がいいホテルです。ただし、当然ながら公演中は満室になりがちです。スカイステージが視聴可能。シャンゼリゼ(レストラン)の和朝食が好きでよくいただきました。甘いものよりしょっぱいもの、パンよりごはん派のわたしにとって、宝塚周辺での朝食はなかなか選択肢が無かったので、たいへんお世話になりました。

 

さて、土地勘のない初心者はここからが問題です。コロナ禍においてはともかく、それ以前は上記のホテルは基本的には既に予約が取れなくなっていることが多かったです。次に候補に挙がるのはホテル若水でしょうが、一人旅しかしないわたしにとっては選択肢となりませんでした。

 

レディースホテル プチハウス

手塚治虫記念館方面のその先にあるたぶん通の宿。このへんにエンジェルラブがあるのね!と知ったり。安価ですが基本的に相部屋なので、一人が好きなわたしは以前は選択肢にありませんでした。コロナ禍中では、二人一室のところ一人一室(ツインに一人で泊まるイメージ)で予約受付をされていたので、最後の最後に白いお洋服で泊まらせていただきました。

ホテルというよりは単身者向け賃貸物件っぽい内装ですが、お部屋にトイレもバスもありましたので特に不自由なく過ごすことができました。パジャマは持参が必要です。ベッドはさすがに狭くて硬かったので、眠れるかな?と心配しましたが、疲れきっていたため即寝ました。

宝塚千秋楽の翌日チェックアウトをお願いすると「良いご卒業でしたか?」と声をかけていただきました。そのときに「はい!」と心から言えたことが、本当に幸せに思い出されます。さすが通の宿。

 

三田ホテルメルクス

宝塚駅から電車で一本の三田駅にあるホテル。初めて行ったときは、宝塚駅から一気に山奥に連れていかれる驚愕の車窓からの風景で、何かの間違いかと思いました。三田駅周辺にはショッピングモールもありますし、怖がらなくて大丈夫です。

宿泊施設の規模としては大きいですが一般的なビジネスホテルです。価格帯は少し割高に感じました。スカイステージ視聴可能なお部屋が選べます。なお、関東圏の人は最初「ミタ」と読んでしまうと思いますが「サンダ」です。

 

ホテルプラザオーサカ

向かう先は三田駅ではないのか?と思ったわたしはなぜか十三駅に降り立ちました。宝塚駅から西宮北口駅乗り換えで5駅。えっ遠くない?と思われた方正解です。ただ、わたしにはわからなかった。

三田ホテルメルクスよりも少しだけ安い価格帯、こちらも宿泊施設としての規模は大きいですが一般的なビジネスホテルです。そんなことより十三駅前の雑然とした感じがすごい。このホテルにたどり着くためにラブホ街を抜けなければならないこともあり、夜遅くなってから歩くのは結構怖かったです。少なくとも宝塚歌劇を観た後に歩きたいルートではなかった。でもそれを別とすれば、十三駅前のあの感じはすごく興味がある雰囲気です。

 

ホテルユニゾ大阪梅田

宝塚駅から梅田まで30分強ということは、梅田でホテルを探せばいいのでは?とようやく気付きました。梅田はホテル激戦区ですので、わたしが絞り込んだのは以下のポイントです。

・チェックアウト時間が遅いほうが良い

・大阪梅田駅(阪急)からのアクセスがわかりやすい

梅田芸術劇場へは過去何度か泊まりで行ったことがあったので、梅芸方面だけはなんとなくわかります。そのときに利用していたのは、ホテルビナリオ梅田やハートンホテル北梅田でした。

上記条件で絞り込むとこちらのホテルが候補に上がります。そして立地を考えるとコストパフォーマンス的には最上位レベルだと思います。つまりとても安い。外観とロビーが綺麗ですがお部屋はごく一般的なビジネスホテルです。チェックアウトが12時なのが嬉しい。常宿にしたいくらいでしたが、わたしが泊まったお部屋のバスルームに若干においがあり、お風呂でゆっくりしたいのでそこがマイナスポイントでした。

お隣にあるcafeゆう梅田店は、落ち着いた雰囲気で軽食もあり、梅芸周辺のカフェが混み合っているときでもあまり影響がない穴場です。(↓こちらはcafeゆう梅田店)

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名鉄イン 新大阪駅東口

正解は本当に梅田なのか?と謎の探究心を持ったわたしです。新幹線を使う場合、新大阪駅ですぐ荷物を預けることができれば最短かつ身軽に宝塚へ向かえることを期待してホテルを探しました。なので、探す条件は駅から近いこと。

こちらのホテルは2020年にオープンしたばかりで、お部屋の内装もデザイナーズと冠していて相応のスタイリッシュさ。とても快適でした。そして駅からとても近いので、新幹線から降りてホテルで荷物を預けてサッとJR在来線で宝塚へ向かうというオペレーションが淀みなく実行できました。便利なので複数回利用しました。

意外に心底助かった点は、新大阪駅在来線の駅ナカにあるエキマルシェ。(わたしが利用したときは、改札外のエキマルシェは開業前〜休業中でした)利用した時期は大阪の緊急事態宣言の要請内容がとても厳しく、飲食店はまず休業中でした。兵庫県も同様で、宝塚阪急百貨店も18時閉店でした。なので、15:30の回を観終わった時点で食べるものを買える場所がほぼコンビニに限定されていましたが、新大阪駅エキマルシェのうちお惣菜・お弁当の店舗が20時まで営業してくれていたおかげで美味しい食べ物を買うことができました。

帰路もホテルで預けていた荷物を受け取って新幹線に飛び乗れば良かったので本当に利便性抜群。新幹線ユーザーでお値段と折り合いがつけばとてもおすすめです。

 

ホテル阪急レスパイア大阪

予約サイトを見ていてふと気付く。ビジネスホテルの価格帯と、一部のハイクラスに分類されるホテルの価格帯が接近している。1,000円でも、500円でもとにかく安く!という方へはおすすめできませんが、ビジホ価格にちょっと上乗せして気分良く過ごせるならそれがいいなぁと、まぁこんなに関西との間で反復横跳びするのもこれが最後だしという気持ちもあって選んだホテル阪急レスパイア大阪。

宝塚歌劇を観て阪急系列のホテルに帰ると満足度が上がる(ような気がする)。梅田で宿に迷うなら阪急にお金を落とそう。阪急を意識するようになったら一人前です(何の?)。

 

番外編(東京宝塚劇場)周辺のホテル

帝国ホテル、レム日比谷、ザ・ペニンシュラ東京、THE GATE HOTEL 東京 by HULIC、ただ単に近さを競うとこの辺りなんですが、レム日比谷以外はこの、お手軽さとかけ離れた、この……。もちろん、新橋方面銀座方面にはいくらでもホテルはあるものの、わたしが求める機能は「隙間時間にすぐ帰って休憩できる」なのです。(コロナ禍の現在では「カフェで時間をつぶす」のもリスクなので…)

今回東京千秋楽に合わせて泊まったのはTHE GATE HOTEL 東京 by HULICでした。さすがにお手頃とは言えませんがお得ではある価格帯になっていたので、こんな時代でもなければ一生宿泊することも無いしと利用させていただきました。宿泊中、何するにも部屋を歩き回らなきゃいけないなぁと思っていたのですが、よく考えたらわたしが住んでる部屋より広かった。キングベッドをご用意いただいていたので、庶民らしく横に使って寝ました。

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本当に快適で楽しかったし、やはり劇場が近くてとても便利でした。でもフロントのあるロビーラウンジのお客さんがおしなべてウェイだったのでビビっていました。

 

 

ホテルをセットにして観劇すると、日常生活から完全に切り離されるので開放感がありますよね。わたしは観劇後、特に何もせず、幸せだな〜って一人で気持ちを抱きしめている時間が大好きです。

桜嵐記〜桜は咲いていたか〜

※副題を変更しました。2021.8.1(旧〜おもかげの花〜)

前回更新したときには既に珠城りょうさんは退団発表*1をされていましたが、それから1年4ヶ月以上が経過した今、退団公演が上演中です。

『桜嵐記』については、もはや思い入れの無い状態で出会ってみたかった作品でもあります。でも思い入れの無い状態で『桜嵐記』に出会ったわたしは、思い入れのある人がこの作品をどう受け止めたのかを絶対に知りたがると思います。なので、思い入れしかないわたしが見た『桜嵐記』のことを、この作品に現れる桜と雪のことを書きます。

 

桜嵐記の雪

『桜嵐記』に於いて紙吹雪で表現されるものは桜と雪です。紙吹雪が舞うとき、書き割りや舞台セットで場面の補強をしてあることが多く、それらをことさら混同させる意図は感じられません。それでもわたしは、『桜嵐記』の桜と雪は夢と現とを分けるもののように思います。

雪が降るのはまず第2場、正行の登場の場面です。弓を放つと張りつめた空気が揺れて枝から雪が零れ落ちるようです。これは天王寺の戦いで史実上でも12月なので写実としての雪と見えます。

次に雪が降っているのは第5場、渡辺橋近くで凍った川に落ちた敵兵を掬い上げ救助している場面で雪がチラついています。これも天王寺の戦いの後ですし、台詞からも真冬ということが分かります。

 

史実との相違

最初に気になっていたのは、タイトルであり主題である「桜」はこの作品で描かれる時系列の中では咲かないことです。

史実上天王寺の戦いは12月にはじまり四條畷の戦いは2月、冒頭の演出にしても、主題歌「冬に咲け 雪に咲け 咲き狂え」とあるのも、上田久美子先生が史実を知らなかったとは考えられず、かと言って「桜」ありきで敢えて季節をずらしたにしては、妙に明確に冬を描いているのです。ですから、矛盾するはずの「桜」と雪が降る季節とを同時に見せたかったのではないかと思いました。

 

桜嵐記の桜

桜を模した紙吹雪が舞う場面は、第12場如意輪寺の庭で桜嵐の中正行と弁内侍がつかの間の逢瀬に身を委ねる場面、第14場四条畷で吹き上げる桜の中正行が一人立ち現れる場面、そして烏帽子を落としざんばらの髪で両手に太刀を掲げて一人戦う場面と、正行の最期の場面です。

東京公演も中日を過ぎた7月下旬から、明らかに紙吹雪の量が増えました。公演日数も残りが少なくなり、紙吹雪の残量配分に余裕が出てきたのかなと思いますが。

『桜嵐記』では紙吹雪が一掃されるような舞台転換がないため、幕開けから雪の紙吹雪も桜の紙吹雪もすべてが舞台上に積もりっぱなしになるのです。

正行の最期の場面ともなれば、舞台上は白色のライトに照らされて一面真っ白になりました。それがまるで一面の雪景色のようでした。正行の亡骸は雪に埋もれて静かに見えなくなっていったのではないか、と思いました。やはり、史実の季節と同じく、ここでも降っていたのは雪ではなかったのか。

 

もののふの花

今回この記事を書くにあたって、ルサンクの脚本を読み直しました。

雪解待ち咲き初む 吉野の花々は

梓弓 帰り来ぬ命のごとく燃ゆ

咲け 咲け 咲け 咲け

もののふの もののふの もののふの花

冬に咲け 雪に咲け 咲き狂え

冒頭正行が歌いますが、この「吉野の花々」とは、そこに生きた命のことではないかと急に気がつきました。だからもののふの花、冬に、雪に咲く花なのだと。

雪が降るはずの季節に降る桜の花々は命のメタファーなのかと考えると、弁内侍の「こんな花は、無数の命が燃え立つように見えます」は、比喩というより、彼女が見たのは命そのものだったのかもしれないと思ったり、ここで降った美しい花々が地に落ちて兵に踏みにじられていったのも、やはり命だったのだと思ったりしました。

 

おもかげの花

第15場出陣式でのカゲコーラス

咲け 咲け 咲け 咲け

おもかげの おもかげの おもかげの花

 おもかげの花は第10場でも弁内侍が口にする歌詞であり、この出陣式が(というよりこの作品自体が)弁内侍の回想に拠っているとすると、「桜」とは弁内侍が見ている夢のようにも思うのです。

史実の季節通り、弁内侍と正行の出会いと別れの中で桜は咲いていなかった。とすると、桜を降らせたのは誰だったか、わたしは弁内侍であったように思います。

正行を失って初めて迎えた春の桜は美しかったのだろうと。正行と共に見たから美しかったのではなくて、正行に出会ったから美しかったのだろうと。

弁内侍は、大切な人を失った後でも春の色を失わなかった、だから40年もの間生きてこられたのではないかと、そうだったらいいなと思いました。

 

桜は咲いていたか

2020年、新型コロナウイルス流行の影響で、宝塚歌劇団の公演スケジュールはすべて延期になりました。『桜嵐記』の本来の公演スケジュールは、宝塚大劇場で11月13日に初日を迎え、東京宝塚劇場で2月14日をもって千穐楽を迎える日程でした。

これは『桜嵐記』で描かれる季節とほぼ同じです。

わたしたちは、愛する人を愛する場所から見送って迎えた春の桜を美しく想ったことでしょう。桜を想うとき、この作品を想ったでしょう。

もしそんなふうにして40年生きたとしたら、『桜嵐記』を満開の桜の中観に行った思い出になったかもしれないなぁと思います。

桜が本当に咲いていたのかどうなのか、それはどうでもいいことのように思います。

 

 

*1:2020年3月16日

緞帳前

「緞帳」(どんちょう):劇場で舞台の最も客席側にあり、お客様の目から舞台を隠し、舞台と客席を区切る、大きな上下する幕(引用http://www.moon-light.ne.jp/termi-nology/meaning/doncho.htm

「緞帳前」:下りた緞帳よりも客席側にある舞台のツラ部分のこと。

 

ではない。

「緞帳前」と言ったら、2019年6月9日東京宝塚劇場千穐楽を迎えた、月組公演『夢現無双 -吉川英治原作「宮本武蔵」より-』『クルンテープ 天使の都』の終演後、当公演をもって退団となる退団者一同の卒業セレモニーも終了し、月組恒例千穐楽大ジャンプという謎儀式*1も終え緞帳が下りた後、トップスター珠城りょうさんが退団者の一人である当時2番手男役の美弥るりかさんを連れて出てきたのちの一連を指す。

2020年4月19日に宝塚専門チャンネルであるタカラヅカ・スカイ・ステージにて、その模様が初めて放送*2された。2019年6月9日当日にはライブビューイングが実施されており、緞帳前の模様も最後まで映画館に配信されていたが、後述する事情により、その部分に関しては放送されないのではないかとファンは危ぶんでいた。

 

緞帳前、放送されました!

良かった!と同時にわたしは思いました。

これ、数年後、何の事情も知らない人が偶然、タカラヅカ・スカイ・ステージで『クルンテープ 天使の都』東京千穐楽・美弥るりかサヨナラショー付きの放送に遭遇してしまい、緞帳前の二人を見て混乱したのちとりあえず「珠城りょう 美弥るりか」で検索をするだろうということを……。「るりたま」?「たまるり」?

まぁいいか、そう、これを読んでいるあなたのための記事です。

 

緞帳前という特別さとは

宝塚に於いて、緞帳前に出てきて客席に挨拶するのは慣例的にトップスターのみで、退団公演にあたる場合のみトップ娘役を伴うことがある*3、ということのようです。

このときの月組では、そもそも2番手男役が退団するということ自体が異例であるからなのですが、緞帳前に登場したのはトップスターと2番手男役でした。袖から二人が登場するとき、珠城さんが美弥さんの手を引いて、美弥さんがつんのめりながら現れることもそうですし、珠城さんが「勝手に私が連れてきて……」と言ったこともそうですが、本来予定されていなかったであろうことが推測されました。

それは、ファンが認識していた慣例が、内部ではもう少し強い制約であった可能性を想像させます。「本来予定されておらず」「制約に違反している」のであれば当然、公式媒体であるタカラヅカ・スカイ・ステージの放送も望み薄だろう、というのがファンの大方の見方だったのではないかと思います。(と同時に、緞帳前の模様まで放送してほしいという要望を送った方も多いと思います。わたしは送りました。)

結果、無事最後まで放送されました。別に制約などなかったのかもしれないし、ファンの要望の方が通ったのかもしれませんが、そこはどうでもいいことです。

 

緞帳前という特別さとは(2)

 何もかもすべて終わった後に緞帳前に現れた珠城さんと美弥さんは、肩の力が抜けていて、朗らかで、終始暖かく柔らかい雰囲気をまとって、存分にイチャイチャしていました。(ほかに何と表現できるのか……)

思えば、2019年1月29日に美弥さんの退団が発表されたときがわたしにとってのはじまりでした。2番手男役の退団というおよそ歓迎されない発表があって、怨嗟と憎悪が渦巻く音が聞こえていたような気がしていました。このブログの前回のエントリーは、その衝撃と混乱で何もかもを見失いそうな自分を守るために書いたものだと言っても過言ではありません。

書いてみて驚きましたが、1月29日だったことを覚えているものなんですね……。珠城さんの退団発表があった日付は覚えていないのに。その点に関しては、ずっと覚悟していたその日が来たということと、そんなことは起きないはずだと信じたかったことが身勝手な期待を裏切ってやって来た、という違いなのだと思います。

そして、控えめに言っても波風が立ったままの状態で月組新トップコンビの大劇場お披露目でもある公演が幕を開け、東京では3番手男役(当時)である月城かなとさんが怪」我で休演、美弥さんもキーを変更しての歌唱になり本調子でないことがわかりました。珠城さんも途中デュエットダンスのリフトをやめ、お芝居でもショーでも一部演出や振付の変更が加えられる事態でした。そして当然、大きな別れを内包したこの公演は、正直、ただ楽しいだけではありませんでした。

それらの複雑な思いをいっぺんに吹き飛ばしてしまったのが、緞帳前でのお二人の罪のない笑顔でした。(それから、無事復帰し現在は2番手を務めている月城かなとさんがいる今だから素直にそう思えるのだと感じます。)

 ちなみに、ご卒業にあたって美弥さんが珠城さんとの関係性に言及した中で一番刺さった発言はこちらです。

私たちの関係は私たちにしか分からないと思うんですよね。

 『宝塚GRAPH』2019年6月号より

 

「りょうちゃん残って」「一緒に戻りましょう」

さてここからは、緞帳前のわたしが好きなポイントを厳選してお送りします。

 まず、珠城さんが美弥さんの手を引いて現れて二人で肩を組んだ後、珠城さんは何も言わずに美弥さんの後ろをすり抜けて一人で捌けようとします。美弥さんはそれを素早く察知し珠城さんの手を掴んで「だめだよりょうちゃん」と慌てて引き留めます。

珠城さんはたぶん、美弥さんを連れてきて自分は袖に戻るつもりだったんだろうなぁと思います。本気で。でも、美弥さんに引き留められたらそれ以上の押し問答はせずその場に残ります。

逆に今度は、客席に向けて改めて感謝を述べた美弥さんが「りょうちゃん残って」、と珠城さんに場を託して一人で去ろうとします。それに対して珠城さんが「一緒に戻りましょう」と提案すると、美弥さんもそれで納得してその場に残ります。

で?って思いますか?

いやこれ、前述した、緞帳前挨拶はトップスターのみという慣例を理解していると、お二人の細やかな気持ちの交感を感じられてぐっときてしまうんです。相手の心遣いを正しく理解し受け取った上で、相手の立場を思い遣った行動をする、そんな風にして関係を築いてこられたのかなぁと思いを馳せてしまいます。

珠城さんが美弥さんだけを残そうとしたのは花を持たせることに違いないでしょうが、慣例的にはトップスターが去るのはあり得ないことです。美弥さんは珠城さんの立場を思って引き留めたのでしょうし、珠城さんもその心遣いを理解したからこそその場に留まったのではないでしょうか。

そして美弥さんは珠城さんの立場を思って舞台上から退去しようとしたのでしょうし、珠城さんもそれに気付いて「一緒に」の妥協案を思い立って、美弥さんはその気持ちを受け止めます。

全部想像でしかないですが、お二人の間に流れる穏やかで優しい空気がそう思わせます。

 

横向いてる率が高い美弥るりかさん

 緞帳前、せっかくのお客様を目の前にして隣にいる人を見ている率の高い美弥るりかさん。(そして珠城さんに「(私のことは)いいんです、いいんです」とやんわり客席を向くよう促される美弥るりかさん。)(自由)

*4な距離感で❝旦那❞*5が挨拶するのをこぼれそうな笑顔で顔を覗き込む美弥さんに客席は笑ってしまうし、視線を感じすぎて照れてしまう珠城りょうさん。ライブビューイングで見たときからそうだったんですが、「一体何を見せられているんだ……」という気分になって、何もかもがどうでもよくなりますね。

二人で袖に捌けて姿が見えなくなってから響いた美弥さんの「ハハッ!」という軽やかな笑い声が、この公演の本当に最後の締めくくりになりました。

 

これを書いている2020年4月現在、宝塚歌劇団は既に公演中止の只中ではありましたがさらに6月末までの公演中止及び公演スケジュールの見直しを発表しています。これは決して7月以降の再開を意味するものではなく、宝塚に限らずありとあらゆる演劇、アートシーン、文化と生活そのものが先行きの見通せない状態にあります。

本当だったらわたしも、月組大劇場公演初日を控えて大忙し、このタイミングで今回のエントリーも書かなかったでしょうね。まぁそこそころくでもない記事でしたが、残すことになれてよかったです。

誰かに覚えておいて欲しい、幸せな記憶として。

 

 

 

 

*1:成立時期は意外と浅い(※瀬奈じゅんさんの時代だそうです)。

*2:円盤に収録されるのは宝塚大劇場公演の中日、公演終了約1年後にタカラヅカ・スカイ・ステージで放送されるのは東京宝塚劇場千穐楽、と相場が決まっています。

*3:この慣例について自分なりに調べてみたのですが、宝塚歌劇団の公式HPで各組のページを見ると、役職(?)が表示されているのは「トップスター」と「トップ娘役」だけです。公式から就任の発表があるのも前述の2役に加えて「組長」「副組長」のみ、ということを考えると、組織的にはそれ以外の役職はないことになっているのだと理解しました。役職なしの生徒に特別待遇をすることがただのえこひいきになる、といった建前なのかなと推察します。

*4:2020年のホットワードです。

*5:美弥るりかさん談。

わたしの知らない研8の珠城りょう

以前から少しばかり気になっていたことがあります。

 

わたしが珠城りょうさんを知ったのは、というか、月組を初めて見たのは『All for One~ダルタニアンと太陽王~』でした。その後半年程度の期間を空けて、徐々に珠城さんに興味を持ち始めたところで、彼女がトップスターとしてはとても若いと言われていることを知ります。研9でのトップスター就任は異例のスピードだと。

ところが、宝塚に全く詳しくないわたしには、それがどのくらい珍しいことなのか、どういった経緯だったのかというのはイマイチわかりませんでした。

そもそも、舞台上での珠城さんは、安定感とか大人の男っぽい落ち着きだとか、(未熟という意味も含む)若さといった特徴からは遠いところにある男役だと思うので、余計に「若い」と言われていたことに対してピンと来なかったのだと思います。

 

トップスターとして若い?

この記事を執筆しているのは2019年2月、珠城さんはトップスターとして3年目を迎えています。この時点での各組トップスターと年次は以下の通りです。

花組 月組 雪組 星組 宙組
明日海りお 珠城りょう 望海風斗 紅ゆずる 真風涼帆
(研16) (研11) (研16) (研17) (研13)

 真風さんが研13であり、現時点で珠城さんが特別若いという印象はありません。

 

当時はどうだったのかなと思い、トップスター就任直後である2016年12月時点*1での並びを調べました。

花組 月組 雪組 星組 宙組
明日海りお 珠城りょう 早霧せいな 紅ゆずる 朝夏まなと
(研14) (研9) (研16) (研15) (研15)

あっ……なるほど……。
このうち、珠城さんは9月に龍真咲さん(研16)の、紅さんは11月に北翔海莉さん(研19)の後任としてトップスターに就任したばかりでした。確かに、すごく若いと感じる……。

でも、研9で、とは言え、大劇場お披露目公演の『グランドホテル』は2017年1月からの公演だし、それもうほぼ研10じゃない?とも思っていました。タイミング的な問題で、すごく若く見えてしまっただけかもしれない、とも。

 

2番手期間が短かった

もう一つ、珠城りょうさんは2番手期間が短かったということをよく目にしました。それでも、2番手として大劇場公演は2作品経験しているし、つまり約1年は2番手だったわけでしょう? そう考えると、1年は結構短いけれど、めちゃくちゃ短かった!というほどではないのではないかなぁ……とこれもぼんやり考えていたことです。

珠城さんの2番手~トップ就任前後の時期については全く知らないので、当時の発表や出来事を時系列に整理して、当時どう受け止められていたかのリアルな感覚を知りたいと思いました。

 

その前に、月組トップスター龍真咲時代の番手に関して

こちらは本論ではないため、わたしの聞きかじりの知識で簡単にまとめてしまいます。*2

龍真咲さんのトップスター就任に伴い、準トップスターという位置付けで明日海りおさんが就任します。まず準トップスターとか聞いたことないし、この体制で大劇場2作品をトップと準トップ役替わりで公演していたというので、この時点でかなり異例のことだったのだろうなぁと思います。その後、明日海りおさんの花組への組替えによって、トップ/準トップ体制は終わりました。

トップスターに続く番手は、このあと大劇場4作品ぶん、明示されることはなかったようです。*3 明日海りおさんの組替えと同時期に月組に組替えして来たのは凪七瑠海さん。同期の美弥るりかさんとW二番手格、それと同格程度の役付きで珠城りょうさんがいる時代になりました。

そしてこの時代が終わる時期について、次項で追います。

 

2015年9月~2016年9月まで、たった1年間
2015.9.1~ 『DRAGON NIGHT!!』
  公演プログラムとフィナーレの並びが龍・珠城・美弥になる
2015.10.1 公演ラインナップ発表 全国ツアー 主演:珠城りょう、愛希れいか
2015.10.29 『タカラヅカスペシャル2015』ポスター画像アップ
  各組二番手の並びに珠城りょうが掲載される
2015.11.13~ 『舞音-MANON-』『GOLDEN JAZZ』宝塚大劇場
  フィナーレで珠城りょうが二番手羽を背負う
2015.12.15 トップスター龍真咲 退団発表
2016.1.3~ 『舞音-MANON-』『GOLDEN JAZZ』(東京宝塚劇場
2016.3.15 次期トップスター 珠城りょう決定
2016.3.19~ 『激情』『Apasionado(アパショナード)!!III』(全国ツアー)
2016.6.10~ 『NOBUNAGA<信長>-下天の夢-』『Forever LOVE!!』宝塚大劇場
2016.8.5~ 『NOBUNAGA<信長>-下天の夢-』『Forever LOVE!!』(東京宝塚劇場
2016.9.4 龍真咲 退団
2016.9.5 珠城りょう トップスター就任

調べながら書き出して、「えっマジか」「マジで言ってんの?」と衝撃を受け止めきれませんでした。2番手期間が短いどころの騒ぎじゃない、初めて2番手羽を背負った日から4か月後には次期トップスターになることが決まっているとは……。

珠城りょうの負荷テストでもしてたの?

 

加速度を増して動き出す時代

2番手の全国ツアー主演は、2014年に紅ゆずるさんがしているし、最近だと2018年には柚香光さんが、2019年には礼真琴さんが行う予定になっています。それらと異なるのは、全国ツアー主演珠城りょうと発表された時点では2番手羽を背負ったことがなかった(=月組2番手と認識されていなかった)状態だったことでした。しかも現トップ娘役*4である愛希れいかさんを相手役に迎えての公演、そりゃあ……そりゃあ色々あったんでしょうね……という……。

タカラヅカスペシャル2015』ポスター画像での2番手示唆があり、『舞音-MANON-』『GOLDEN JAZZ』ではその通りに2番手羽を背負って大階段を降りることになりました。大劇場公演千穐楽の翌日に龍真咲さんの退団発表があったとき、珠城りょうさんが次期トップスターになると考えた人はほとんどいなかったのではないでしょうか? 何もかもが突然動き出し、時代が変わってゆきます。

そういえば、珠城りょうには時間がなさすぎた、と言われているのを見たことも思い出しました。

 

トップスターになるということ

珠城さんは度々、トップ就任のお話をいただいたときはすぐにお返事できなかったという話をされていますが、それは当然トップスターに「責任」という側面があるからだと思っていました。実際に、彼女の発言からそれを読み取ることはできるのですが、彼女が言及しないもう一つの側面がトップ就任にはある、ということを、今回順を追って調べていくことで気づきました。

トップスターになるということは、退団へのカウントダウンのスタートでもあります。退団されるトップさん・トップ娘役さんの会見を見ると、終わりを意識してその立場に就くのだということは、わたしにも何となくわかってきました。

珠城さんがトップ就任の打診をされたのは、おそらく、驚くべきことに研8のときです。彼女の意思に関わらず、研8の時点で自身の去就すら突きつけられることになったのだ、ということをわたしはようやく理解しました。

 

2019年2月とは

美弥るりかさんの退団発表が数日前にあり、七海ひろきさんが大劇場を卒業し、今日は紅ゆずるさんと綺咲愛里さんの退団会見がありました。

宝塚を熱心に見るようになってからまだ1年程度なので、こんなにも心が千々に乱れるようなことが初めてでとても動揺しています。そして、タカラジェンヌ愛する人ならば誰でもが経験することになるその時を、わたしはどう迎えるのだろうということが頭から離れないでいました。空っぽになってしまうのか、絶望してしまうのか、清々しい気持ちになっているのか、たくさんの感謝を送っているのか。

そんな中で気を逸らすようなつもりで、「気になっていたけどそのままにしていたこと」を調べることにしました。そうして改めて、彼女たちが自分の時間と向き合いながら宝塚という世界で生きているということを実感しています。

じゃあ、わたしもそうやって生きようかな。

 

「一緒に行って欲しいと、お願いしたいのですが……でも私は死にかけてるし……」

「わたしたちはみんな、いずれ死ぬのよ」

『グランドホテル』*5より オットーとフラムシェンの会話

 

 

 

 

 

 

 

*1:タカスペ出演者で調べようとしたためです。

*2:大きな勘違いをしていたら教えてください……。

*3:最近気付いたのですが、トップスターとトップ娘役は公式で発表されますが、二番手以下は発表されないので、劇団としては公式には二番手というポジションを認めていないのか、と。生徒の私設FCと同じで、完全にそれありきで機能しているんだけど、建前上認めていないという性質のものなのかなと考えています。

*4:当時

*5:大好き!

計画通り上手く運ぶわけはない宝塚市への旅

月組エリザベートー愛と死の輪舞曲ー」宝塚大劇場千秋楽公演(愛希れいかさんのサヨナラショーもついている特別な公演!)である10月1日のチケットを持っていたわたし(関東在住)が、台風24号に翻弄されながら宝塚市を目指す旅の物語である。

 

嵐が来る前

10月1日に宝塚大劇場へ行く予定は決まっていたのですが、前日の9月30日に花組「MESSIAH(メサイア) −異聞・天草四郎− /BEAUTIFUL GARDEN −百花繚乱−」のチケットが取れてどちらにも行きたかったので、どちらにも行くことにしていました。

つまり、9月30日は東京宝塚劇場花組公演を観て、10月1日は日帰りで宝塚大劇場の予定でした。観劇オタクにはよくあることですね。

ところが大型で勢力の強い台風24号が発生し、上記日程にモロ被りの進路であることから、予定を再考しなければならなくなります。

 

9月26日にしたこと

10月1日は航空券を取っていたのですが、この時点で当日飛行機が飛ぶかどうかに賭けるのは非常に危険でした。もし飛行機が定刻で飛ぶとしても、空港までの電車がダイヤの乱れなく動いているか、関西方面の電車も同じようにダイヤの乱れなく動いているか、を考えると10月1日に移動するのはかなりリスキーだと思いました。(線路に木が倒れたりしたら終わりですよね)

ということは、前乗りする必要があるので、まず10月1日神戸行きの航空券はキャンセルしました。同時に、9月30日のチケットの譲り手を探しました。幸い友人が行ってみたいと言ってくれたので、花組をプレゼンしつつチケットを託しました。

9月30日の宿泊先も用意する必要がありましたが、それは宝塚大劇場周辺であることが条件でした。先の台風で学習していたのですが、電車が止まってしまうと、近くまで行けたとしても結局劇場までたどり着けないのです。迷った挙句、残っていた宝塚ホテルの残り一室を仕事中に抑えました。仕事どころではない。

 

9月29日にしたこと

行きの航空券をキャンセルしたあと、代わりの足を用意するのは台風の進路をギリギリまで確認してからと思っていました。

この日、JR西日本阪急電鉄は9月30日正午を目処に運休予定と発表しました。 

空路と陸路なら陸路の方が確実と思っていましたが、陸路で向かった場合はより時間がかかるため、状況によっては途中で電車が止まる可能性が高いと判断、9月30日神戸行きの一番早い飛行機が残り一席だったので、慌てて昼休憩に抑えました。笹食ってる場合じゃねぇ!

この予定だと、宝塚大劇場周辺には正午より前にかなり余裕を持って到着できます。

9月30日は11時(貸切)と15時の二公演がありました。当然チケットは持っていませんでしたが、荒天の影響で交通手段がなくなっている場合当日券が買えるかも!と気付き、一気にテンションが上がりました。*1

ところが夜、翌日の当日券情報を公式HPで確認したところ翌日は当日券発売の予定なし、かつ15時の上演については当日午前に決定と書いてあります。マジか……。

 

9月30日午前中

定刻で飛行機は飛び、目的地に到着すると雨も降ってないし風も全然強くないですが……、ずっと気にして見ていた公式HPでついに15時公演の中止が発表されました。

阪急電車もびっくりするくらい人が乗ってないけれど、それもそのはず、百貨店やデパートは前日の段階で臨時休業を発表していますし、それに準じておそらくほとんどのお店や催し物は本日やっていないでしょう。あと、前提として正午を目処に電車が止まります。

という状況で、チケットも持っていないし当日券も売っていないけれど、宝塚大劇場へ行きました。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、宝塚市を目指す旅はここで無事到着して話が終わってしまうんですが、この後もすごく楽しかったので旅の思い出を全部書きます。

 

9月30日宝塚大劇場

到着したのは10時頃、この時点で雨は降っていませんでした。まずは館内状況を見て回りました。レストラン「フェリエ」「くすのき」は休業していましたが、それ以外のお店は終了時刻の繰り上げ予定はあるものの営業中で、寂しい感じはありませんでした。

宝塚歌劇の殿堂も営業中。月エリザ期間通算3回目ですが行って参りました。さすがに人は少なく、エリザベート展の映像コーナーもいつでも入って座って見られる状態でした。わたしはこの日まで見られていなかったので、楽しく拝見しました。すごい!テニミュ(概念)じゃん!『お前は青学の柱になれ』を初代〜9代目まで繋げて編集したみたいなエモさだよ!(10代目は現在公演中なところもテニミュと同じです!) そして同じ役だからこそ違いがわかってとても興味深かったです。やはり1998年宙組公演の花總まりさんが素晴らしくて、細切れ編集の『私だけに』でも心を打つものがあって涙しました。あとは銀橋にトートが仁王立ちになるシーンで、「うわっっっすごい太ももだ!!!」と思った瞬間、画面左肩に2009年月組と入っていました。これが瀬奈じゅんさんの太もも……!*2もちろんこの後、カンパニー/BADDY展示も楽しみました!

次はキャトルレーヴです。この後ホテルに戻って部屋で半日過ごすわけですから、この機会に、買おうと思っていた鳳月杏さんの「FOCUS ON」を!と思って書籍コーナーに直行したら売り切れていました……。計画通り上手く運ぶわけはない……。でも、東京のキャトルレーヴより品揃えがあるので、過去の珠城さんの2L判ブロマイドを購入しました!ホテルで部屋に飾る!

それから、歌劇コラボメニューのランダム缶バッジチャレンジ3回目のためにレストラン「ラ・ロンド」へ。

入店した時点で、お店が閉店するまで残り40分強。急いで食べます。食後のコーヒーをいただきながら、外袋を開封。過去2回のチャレンジは2回とも明日海りおさんでした。珠城りょうさんを自引きしたい、オタクとしてはその一心です。さて、3度目の正直はなんと……!明日海りおさんでした。ホントかよ。

いいオチがついたところで宝塚大劇場を後にしました。わたしが館内をうろうろしていた時間というのは11時公演の上演中でしたが、いつも通りとはいかないものの思っていたよりたくさんの人が来ていました。ここにいる人というのは、11時公演のチケットを持っていなくて、15時公演は中止なのでそれを観るわけでもなく、つまり観劇できないのが分かっていてお昼には電車が止まるという条件下でわざわざ来た人なのでしょう。そう考えると、宝塚歌劇のエンターテイメント力に感服しました。実際、わたしもすごく楽しく過ごせました。

 

9月30日宝塚ホテル

いつか泊まってみようと思っていた宝塚ホテルなので、この機会があって良かったです。

(宝塚ホテルとはこのような場所です。)(この写真、無意識に珠城りょうさんの正面に立って撮っていますね。)

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お部屋に入ってとりあえずテレビをつけると、初期設定がスカイステージ。さ、さっすが〜〜!

お部屋の備品の一つ調子が悪かったので、フロントに連絡して係の方に来ていただきました。そのときもテレビはスカステをつけっぱなしにしていて、ちょうど宙組銀河英雄伝説の東京千秋楽が終わるところだったので、『この愛よ永遠に -TAKARAZUKA FOREVER-』が歌われていました。係の方「この歌聴くと、一緒に歌っちゃいますよね〜」とお話ししながら備品を確認してくださったんですが、わたしは初心者もいいとこなので全然歌えません。文化の違いを感じながらお話を聞いていました。

その後は、宝塚ホテルを探検です!昔っぽさを残しながら、増改築を繰り返して現在に来ているのがすごくよく分かりました。肩肘張っちゃうようなクラシックさではなく、ずっとそこにある安心感みたいなものがありました。館内にほとんど人は歩いておらず、レストランやバーも一部休業、こんな写真が簡単に撮れるほど誰もいなくて静かだったので、世界の終末感があってよかったです。

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外は暗くなって、さすがに風雨が強くなっていました。完全に殺人事件が起こる雰囲気です。

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しかし、歩き回ってよく見ると、館内はところどころ雨漏りする箇所があるらしく、青のポリ容器に布を仕込んだ雨漏り対策セットが設置されており、殺人事件は起こらないタイプののどかな洋館であることに気づきました。良かったです。

スカステの映像が乱れたことで風雨の強さを感じつつ、横になった瞬間に寝ていました。

 

10月1日宝塚大劇場千秋楽

感想は割愛!1ヶ月ぶりに観た千秋楽公演はなんかもうすごくて、すごくドキドキして、なんかすごく良くて、本当に良くて、サヨナラショーというものは聞いたことしかなくて、初めてのサヨナラショーを観て、もうあまりの美しさ(それは視覚だけのことではなく、宝塚歌劇が築き受け継ぎ形になっている全てのものに対して抱く感情)に涙がポタポタと止まらなくて、それとは対照的なまでに等身大で晴れ晴れとした退団者のご挨拶に胸を打たれ、たまちゃぴ最高だなぁあああああああって思いながら腕時計で時間を確認しました。フライトの時刻が迫っています。

 

10月1日帰路

わたしが乗らなければならないのは、神戸空港19時10分発の飛行機です。このリアルな感じ、未来のわたしに必要となる情報だと思われるので書き残す使命を感じました。

大劇場で席を立ったのは17時、緞帳前の最後のご挨拶は見られませんでした。というのも、終演後に席を立つ方たちと同じタイミングでは人の波に飲まれてしまうので、敢えて早めに行動しなければなりません。

席を立ったら早歩きで館内を移動し、ロッカーに預けておいた荷物を回収、花のみちとソリオを早歩きで通り抜けて17時20分頃には阪急宝塚駅に到着しました。電車の乗り換えはうまくいったので、ポートアイランド線神戸空港駅まで順調にたどり着くことができました。神戸空港でチェックインを終えたのが18時30分です。保安検査場も混んでいなかったので、無事フライトに間に合いました。

これが、トップ娘役サヨナラショー付き・退団者2名の場合のタイムスケジュールの限界ラインだと思われます。

 

おわりに

このエントリーは9月30日にホテルで暇を持て余しつつ書き進めていたもので、最後は、

結論から申しますと 番狂わせ おもしろい!

としてオチるはずだったんですが、最後の最後に計画通り上手く運んでしまったのでオチを見失いました。

あら?でもそうすると、

計画通り上手く運ぶわけはない

予定通りいかない番狂わせ

だったのかしら?

 

*1:公演が中止になることは全く頭にありませんでした。

*2:珠城りょうさんの太ももが素晴らしいことに気づいた頃にツイッターで検索していると、珠城さんの太ももに言及している方の瀬奈じゅんさんの太もも言及率が高くて気になっていたのです。

宝塚初心者が抱きがちな疑問に初心者が答える

自分に初心者の自覚があるうちに、自問自答形式のQ&Aを作成しようと思いました。

何の参考になるかわかりませんが、よろしくお願いします。 

 

劇場へ赴いて観劇した日篇

Q1.拍手のタイミングがわからない。

A1.主要人物の登場SEみたいなものだと思ってください。歌終わりに拍手が入るとは限りません。初心者にはわからないので適当に合わせるか、玄人に任せて観劇に集中しましょう。

Q2.休憩が30分もある。

A2.テニミュ生まれテニミュ育ちのわたしにとって休憩は15分と体が覚えていたので、最初はどうしても残り10分弱は持て余していました。お手洗いに行く、食べ物や飲み物を買ってみる(口にしてみる)、プログラムを買ってみる(読む)、劇場内は広いので散歩してみる、劇場内のキャトルレーヴ*1に行ってみる、などすると30分が終わると思います。

Q3.お芝居はともかく、ショーで人の見わけがつかない。

A3.慣れましょう。わたしはある時突然、解像度が上がったみたいに顔の違いがわかるようになりました。たぶん、あの独特の舞台メイクを脳が「仕様」と認識すると、そこからの差異に目が向くようになるのだと思います。

Q4.誰が偉い(?)人なのかわからない。

A4.ショーだと場面によって見せ場のある人が違うから、真ん中で目立っている人が必ずしもトップスターだとは限らないですからね……難しいですね……。ただし、上から下まで寸分の隙もなく全身キラッッッキラの衣装を着ている人はトップスターです。キラキラが物理的に多い人が偉い(?)人です。

Q5.あの人誰!?

A5.どういう場面でどの辺にいてどんな衣装で何をしているどんな人だったか、ある程度の詳細がわかれば、一緒に行ったヅカオタかツイッターの人が教えてくれます。ただし、教えてくれた名前でググって宝塚歌劇団公式プロフィール写真を見ても、それがまた独特なので、本当にその人だったのかわからずモヤモヤします。

Q6.ショーを見たらお芝居をよく思い出せなくなっている。

A6.仕方ないですね。

 

素朴な疑問篇

Q7.何組があるの?

A7.ここに書いてあることで大概の疑問は解消できます!

kageki.hankyu.co.jp

Q8.花組月組雪組星組宙組、組によって特色の違いはあるの?

A8.あるといえばあるけど、ないといえばないのではないしょうか?少なくとも、初心者が理解できるレベルの違いはないと思います。単純に、所属している人が違います。どちらかというと、その時々のトップスターによって演目の傾向も組の雰囲気も変わるのではないかと思います。わたしはここらへんが気になって、各組を順番に見てみようとふと思い立ち実行している中で、珠城りょうさんによって深刻なエラーが発生しました

Q9.〇〇さんって何歳くらい?

A9.年齢は非公開です。出身校(中学校だったり高校だったりする)が公表されているのと、何回目の宝塚音楽学校受験で合格したかというのはご本人がお話されることも多いため、だいたい想像がついたりしますが、口に出すのは粋じゃねえな……。何歳になったかわからないお誕生日をファンは毎年祝っています*2

Q10.トップスターって誰がなるの?

A10.一企業の人事です!わかりません!

Q11.チケットが取れないんだけど……。

A11.「宝塚観てみたいなぁ」よりは「(公演名)観たいなぁ」「〇組(〇〇さん)に興味あるな~」と具体的な興味のありかを公言していると、どこからともなくヅカオタが現れてチケットを用意してくれることがあります。もし誘われた場合、見た感想を伝えると大喜びするので素直な気持ちを伝えましょう!

 

月組エリザベート-愛と死の輪舞曲-が観たいなぁ』*3

 

*1:宝塚歌劇団公式ショップ。写真・BD/DVD、CD・書籍類の定番から、スターのアクリルキーホルダーまであります。個人的には、トップスター監修グッズの謎センスに目が釘付けになるのでチェックをお勧めします。ちなみにわたしは珠城りょうさんの監修グッズ(犬)を買っています。

*2:実はテニミュキャストもそうなのだ。

*3:この手法は純粋な心を持った初心者にしか適用されません。