Fly me to the Moon

ってタイトル付けて記事書いてしまった(ついに)

サヨナラショーが映す心象~珠城りょうサヨナラショーに寄せて~

サヨナラショー

トップスターの退団にあたって、その最後の宝塚大劇場公演と東京宝塚劇場公演の千秋楽(とその前日)には、そのスターの思い出の名場面などを綴る「サヨナラショー」が追加上演される。始まったのは1963年の明石照子から。近年は、千秋楽に退団者が紋付袴姿でお客様にお別れのあいさつをするのが恒例となった。

kageki.hankyu.co.jp

 

宝塚歌劇を観に行くだけでなく、出演者に関心を持ったり過去の公演を映像で見たり興味を持って文化を調べたり…というようなことをするようになって3年程が経ちました。

今回、その3年程大好きでいた珠城りょうさんのサヨナラショーを観て初めて、サヨナラショーが何なのかを理解することができたように思います。

 

愛希れいかさんのサヨナラショー

わたしが初めて見たサヨナラショーは愛希れいかさんのものです。

所謂ビギナーズラックだったのでしょうが、劇場で拝見することができました。チケットぴあのゴールドステージ以上でもらえる当選確率UP券を使って宝塚大劇場の千秋楽公演に申込したところ当選しました。当日、劇場改札ではみなピンクのチケット*1を手にピロン!ピロン!*2と入場しているのを見て、自分の手の中にある緑色のチケット*3で入場できるのかと不安になったことを鮮明に覚えています。

過去のブログ記事にも書いていますが、このときは本当に好きと勢いだけある初心者だったので『この愛よ永遠に-TAKARAZUKA FOREVER-』すら歌うことができませんでした。(歌える必要はないんですけど……基本、ヅカオタは歌えますよね……)

愛希れいかさんのサヨナラショーは、美しく、会場いっぱいに彼女への愛が満ちているようで、その神聖な雰囲気は初めて感じるものでした。

一方で、サヨナラショーというものをそれまで全く見たことがなかったわたしは色々と面食らいます。ショーというから、2本立てのときのショーのようなものだと思っていたんですが、個人にフォーカスするぶんショーというよりかはリサイタルみたいですよね。基本的には一曲歌って音楽が鳴りやみ、また音楽が始まって一曲歌うという構成になるので、ぶつ切り感があるなと思っていました。舞台上にそのひと一人しかいない時間も長いので、「宝塚のショー」をイメージしてしまうとすごくシンプルに感じられました。そして一番は、歌っている曲が1/3くらいわからなかったこと、1/3は知ってはいるけどなぜ選曲したのかがわからなかったこと。つまり、わたしは彼女のことをあまりにも知らないのだと思ったのでした。

彼女がここで見せているものをわたしは受け止め切れていない、そう感じて、自分の不甲斐無さがちょっと悔しかったです。

 

サヨナラショーって何だろう

 ところでサヨナラショーって何だろう。定義は、用語解説を読んだからわかったのだけれど、そうでなく、どういう意味を持っているものなんだろうか。それは、大好きだと思っていたちゃぴちゃん*4のサヨナラショーが消化不良のままになったその後からぼんやり考えていたことでした。

2021年の現在、宝塚大劇場東京宝塚劇場の千秋楽はライブビューイング・ライブ配信が実施されることが恒例となっています。特にライブ配信は、時間さえ都合がつけば自宅で見ることができるので「宝塚を一度は見てみようかな」という層も気軽にアクセスできる手段です。なので、「宝塚を一度は見てみようかな」という人がたまたま見た公演がたまたまサヨナラ公演でたまたまサヨナラショーを見ることもあり得ます。

しかし、ライブビューイングにしてもライブ配信にしても、始まったのは近年です。それ以前の長い間は、その最後の一日(またはその前公演を含む最後の2回)に劇場に足を運んだ2千名だけが観ることのできた特別なショーだったのでしょう。

もちろん、そのような特別な日には思い入れたっぷりの観客が押し寄せたはずで、きっとそもそもはそういう人たちに向けて届けられたショーなのだと思います。(特別なショーが付属しているにも関わらず票券価格が同じなのも、そういう成り立ちからではないかなぁと思いました。サヨナラショーは付加価値という性質のものではなく、並々ならぬ思い入れのファンに向けた舞台人からの感謝の形では、と)

それから、そもそも「宝塚のショー」って、という部分にも言及したいと思います。ショーというものは、宝塚歌劇で披露されているものに限らず、歌や踊りや衣装やその肉体や、あるいは照明や音楽や、とにかく眼前にあるもので楽しませてくれるものです。だから何も知らなくても、演者の美しさや芸やあるいは舞台そのものから発せられる煌めきや生命力やとにかくその場で発生しているものを楽しむことができます。

さらに宝塚歌劇では確固たるスターシステムの上「その演者がやる意味」をいかに付与するかという部分も肝要だと思います。スターの得意な分野で遺憾なくその能力が発揮できているか、だとか、はたまた意外性のあるものが見せられるか、とか、スターの経歴やエピソードやそういったものを盛り込んだりもしますよね。歌い継ぎでスターさんの名前が1フレーズごとに盛り込まれているお馴染みの手法も、初めてそれに気付いたときは「すごい!」ってとても興奮しました。

「宝塚のショー」は、眼前で披露されているものをそのまま受け取って楽しめるエンターテインメントであると同時に、出演するスターのバックグラウンドを重ねることでより解像度の上がる仕組みです。サヨナラショーは、その後者の機能を極限まで特化しているものなのかなと思いました。大がかりな装置や派手な装飾のない舞台で、ただ歌い踊る。その歌や音楽の向こう側に、ファンは思い思いに、舞台に乗っかりきらないその背景をも観ている。

珠城りょうさんのサヨナラショーを見て、そのように思いました。

 

珠城りょうサヨナラショー

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M1アーサー王賛歌『アーサー王伝説

…… ♪キーングアーサー♪キーングアーサー♪

アーサー王だ!?)幕開き1曲目に驚きを隠せぬまま、大階段の真ん中に一人立つ珠城りょうさんにピンスポットが当たる。

影ナレ(マーリン)「今こそ、アーサー・ペンドラゴンは本当の王になられた。愛と寛容の精神を持ってこの国を導かれるだろう!」

もう泣いた。そして何と!わたしは珠城りょうさん主演作の中で『アーサー王伝説』だけ見ていません!なぜか。あまりにつらくて手が出せなかったからです。

アーサー王伝説』はトッププレお披露目*5の演目であり海外ミュージカル作品ですが、「アーサー王賛歌」は宝塚で上演にあたり書き下ろされた楽曲です。つまり珠城さんに当てて書かれたものですね。

恐れられる王でなく愛される王に

そして民を愛する慈悲深き君主に

神が決めた定めなら己の孤独を封印し

民のためこの国のため私は生きよう

それが定め 道は一つ

 見てはいないですが「アーサー王賛歌」は知っています。なぜなら感想はたくさん読んだからです。そもそも『アーサー王伝説』のあらすじがまあなんと言うかつらい。感想読む限りでもつらい。しかもこの演目がプレお披露目だと思うとつらいし、「アーサー王賛歌」が研9でトップに就任したばかりだった珠城さんに当てて書かれているのもつらい。これを歌わねばならないのもつらい。というわけで見ていなかった。

いやわかっていますよ!?これは石田先生の愛情だということも、歌詞に書かれているように「こう生きるしかない」とも言える王の姿とは、これは珠城さんがどうこうという話ではなくて、トップスターという立場に求められる性質のものであるということも。それでも、それを宣言させてしまうのか……という重さに足が竦むような感覚で、どうしても見る気になれなかったのでした。

そして冒頭に戻りますが、サヨナラショーの幕開きで泣いたのは、わたしがずっと抱いていたこれらの感傷があまりにも的外れだったからです。彼女はそんな感傷の中には勿論いませんでした。この「アーサー王賛歌」をサヨナラショー1曲目で歌いその宣言を実行したことを彼女は見せたのでした。というより、それを見せるのだ、という意思の方にやられてしまいました。マーリンの台詞が入ったのは珠城さんの希望ということなので、マーリンの台詞に今の自分自身と月組の存在を持って応えたかったのではないでしょうか。

退団発表記者会見の珠城さんは「私は孤独を感じたことはなかった」と言いました。「アーサー王賛歌」の中でそこだけは現実にしなかった、したくないという意思もあったのかもしれません。(もちろん、彼女の周囲の人々が彼女を独りにしなかったということが一番大きいと思いますが)

サヨナラショーでは珠城さんの伏線自力回収力に驚かされてばかりだったのですが、これがその最初です。

 

M2カンパニー『カンパニー ―努力、情熱、そして仲間たち―』

君に出会えただけで幸せだった

この歌い出しは、珠城りょう演じる青柳誠ニが亡き妻ともみを想って歌うフレーズです。これを聴くと(わたしはともみだったのか……)と夢女になってしまうのでした。

そしてサヨナラショーの文脈で歌われるこのフレーズはファンに向けて届けられているとも思いました。また同時に、全く同じことをファンが珠城さんに向けて思うであろうことも。

記憶の中のキミがいつの日にか

とても素晴らしい思い出となり

僕の心照らすよ

『カンパニー』の中のともみさんの存在を考えると、それを逆照射して珠城さんを見るとき、やはりちょっと切ない感じがします。この別れもいつか暖かいだけの思い出に変わっていくのかなぁと思います。でも過去に囚われているわけじゃなくて忘れるわけじゃなくて、この先を生きていく間、何かのときに励ましてくれるような存在が、青柳さんにとってのともみさんではないでしょうか?

 

M3Roses at the station『グランドホテル』

サヨナラショーで殺された人いる?

『グランドホテル』は映像でしか見たことがありません。珠城さんの出演作の中では、劇場で観られなかったことを後悔している作品ブッチギリの第一位です。わたしはサヨナラショーで初めて、男爵が劇場にいるところを観ました。

「Roses at the station」は、劇中と同じく赤い薔薇の花束を抱えて男爵が歌います。

「Roses at the station」から死のボレロは特に好きな場面でBDで何度も見ていましたが、あの赤い薔薇の意味に気付いたのはこのときでした。赤い薔薇の花束は、エリザヴェッタ・グルーシンスカヤと駅で再会するときにそれを持って現れると男爵が約束したもので、それは男爵のありったけの愛そのものだったはずです。それが、凶弾に倒れた男爵の胸で赤く咲いていて今度は血のメタファーとしてそこにある。この愛と死の表裏を初めて感じることができました。(サヨナラショーでは披露されていませんが、劇中でこの後続く死のボレロも愛と死が同じ顔をして男爵のもとにやって来るのが好きです)

劇場では見られなかった『グランドホテル 』から、サヨナラショーをきっかけに新しいものが得られたことをとても嬉しく思っています。

 

M5ブロンド『I AM FROM AUSTRIA―故郷は甘き調べ―』
M8ラ・ベル・エポック・ド・パリ『ピガール狂騒曲』

美園さくらさんのソロ曲と、彼女を軸にして暁千星さん(ありちゃん)・風間柚乃さん(おだちん)の3人で歌う曲、この曲を持つ二作は、それぞれ「女性/女の子が主人公の主体的な選択のお話」だったと思っています。だからそこから、さくらちゃんを真ん中にした場面が作られたのはすごく合っていると思いました。

IAFAのメインテーマ、本公演をやっていた頃よりずっと表現力が豊かになっていて全然聴こえ方が違って驚きました。そしてエマをイメージしたとってもとっても素敵なお衣装!(こちらも薄井香菜先生でしょうか?)エレガントなんですけどキュートでもあるんですよね、これはさくらちゃん自身の魅力でもあったと思います。

「ラ・ベル・エポック・ド・パリ」は、さくらちゃんと関わりの深い二人も登場しますが、特にありちゃんは、さくらちゃんにとっては王子様みたいな人だったのかなぁと思います。ありちゃんがさくらちゃんを見る時の目が爽やかだけど熱っぽくて良かったな。

 

M7同じ星空の下で『夢現無双―吉川英治原作「宮本武蔵」より―』

『夢現無双』『クルンテープ』……わたしにとっては「楽しかった!」と一言で振り返るにはあまりにもいろんなことを感じた公演でした。(でも当時のツイッターのログを読み返したら十分楽しそうではありました。ブランコで登場する全身白のパツンパツンのお衣装のサンバロット様がものすごく好きでした!登場が一瞬なんだけど。)

ひとつは、この公演で美弥るりかさんが退団されること。

これを書いている2021年では、2番手での退団あるいは退団発表が続いています。花組の瀬戸かずやさん、星組の愛月ひかるさん、2番手での退団例はそのお二人の前が2019年の美弥るりかさんでした。しかし、美弥るりかさんの更に前例となると、雪組彩吹真央さんで2010年のことだったようです。

それはおよそ10年ぶりのことであり、月組集合日の退団者のお知らせから東京千秋楽のその日まで、ファン界隈は非常に動揺していたように思います。そしてその動揺はわたしにも強いインパクトとして届いていました。

クルンテープ』では宝塚での初日が開けてすぐの頃に「cha cha SING」が「セ・マニフィーク」に差し替えになったり、オレンジの僧衣が緑色のものに変更になったり、美弥さんのソロ銀橋の曲が変更になったりとなんだかバタバタしているのかな?という印象でした。

東京公演に入ってすぐ、月城かなとさん(れいこさん)が怪我で全日程休演となります。『夢現無双』の代役には風間柚乃さんが入り、『クルンテープ』では場面ごとに代役が割り振られました。当時すでに3番手だったれいこさんの出番は多く、影響は大きかっただろうと思います。

そして東京公演中盤で、デュエットダンス中のリフトがなくなった期間がありました。また、同時期に『夢現無双』では、武蔵が吊られた木から落ちるシーンが暗転に変更になっており、珠城さんも故障があったのだろうと思われました。

なんとなく落ち着かない気持ちで 、それでも一番気がかりだったのは、この公演が珠城りょう・美園さくらの新トップコンビお披露目公演だったことでした。

もちろん、トップコンビお披露目らしく、『クルンテープ』では結婚式のシーンあり、恋物語のように初々しくうっとりするようなお芝居仕立てのデュエットダンスがあったりは!したんですけど!!『夢現無双』のお通、武蔵が変人だった*6せいで、ろくに二人きりの場面もなくパワフルおっかけガールとして終わってしまったり、これは公演と全く関係がないですが、トップコンビお披露目というただひたすらにめでたいはずの時間を、ただひたすらにめでたい気持ちだけで過ごせなかったことがずっと心に引っ掛かっていました。

なので、『夢現無双』からの一曲を珠城さんとさくらちゃんのデュエットソングとして、また新しく振付したデュエットダンスを加えて見せてもらえたことが本当に嬉しかったです。

珠城・美園トップコンビ時代の作品がいくつかある中で、「二人で」歌って踊るのにこの作品を選んでくれたこと、今の二人の幸せな姿で記憶に残ることに胸がいっぱいになりました。

わたしは何やかや、さくらちゃんが幸せでいてくれているのだろうかと心配することも多かったのですが、振り返ってみると、どんなときでも幸せそうにしているさくらちゃんを見ることで救われた気持ちになることばっかりだったなぁと思います。

ところで次のM8へ行くときの、珠城さんがさくらちゃんを銀橋の方に押し出す力が強すぎて笑ってしまうのですが。宝塚千秋楽では珠城さんがさくらちゃんの鬘の髪を撫でたら袖の飾りが絡まってしまいさすがにやや焦りが見えたので(笑)、照れ隠しか何かだったんでしょうか。と思いきや東京でも力が強かったです。(謎)

 

M11クルンテープクルンテープ 天使の都』

順番が前後しますが、前項の続きでもあるのでこちらを。

クルンテープ」はれいこさんが軸となって退団者と一緒に登場する場面です。前述の通り、れいこさんは『夢現無双』『クルンテープ 』の東京公演を途中休演することになりましたが、実は最初はショーのみ休演で『夢現無双』は出演していた期間があったのです。ですから、休演期間として長かったのは『クルンテープ』の方でした。

もしかしたら、このあたりの経緯をご存知でない方は「何でれいこさんクルンテープ?」と思われたかもしれませんが、選曲意図は、彼女があの時の続きを終わらせられるように・今回限りでもう同じ舞台には立つことのない退団者と一緒にやり遂げられるように、だったのかなと思っています。

こうやって時代をひとつ「終わらせる」んだなぁとすごく思いました。

 

M9世界最強のコンビ『幽霊刑事~サヨナラする、その前に~』

「僕たちがタッグを組めば、シティハンターもシャーロックホームズも二流の捜査官だ!」

というのは、『幽霊刑事』をご覧になった方はご存知かと思いますが、上演台本そのままの台詞です。

大劇場サヨナラ公演の直前にバウホールで上演されていた作品なので、この直後に宙組シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-』と雪組CITY HUNTER』の上演が控えている状況そのままサヨナラショーに使えたというわけです。結構ウケてて良かった。

ところでサヨナラショーで幽霊になってる人が爆誕しました。(3曲目で銃殺されていたのは前フリだった?!)(たぶん違います)

突然の小芝居、小気味良い軽妙な台詞の掛け合いで笑わせて空気もフワッと軽くなります。湿っぽくなりすぎない意図かと思いきや、単にちなたまセレクトなのではないか…と思うわたしでした。

『幽霊刑事』は原作では先輩後輩関係だったところを同期の二人とするアダプテーションがあります。珠城さんと鳳月杏さん(ちなつさん)の関係性はむしろ後輩先輩の関係なわけですが、この二人の「似ていて異質」「異質だけど似ている」みたいな、並べたときの化学反応は関係性が緊密であるほど面白いんだと思うんですよね。

 

M10花のうた『月雲の皇子』―衣通姫伝説より―

前奏が入り「穴穂、花がきれいだ」の一言がもう木梨軽皇子様の肉体から発せられた木梨軽皇子様の声で、それに応えるちなつさんももう穴穂で、つい数十秒前にふざけたやりとりをしていたところから場所も衣装も変わっていないのに、作品世界に強く引き込まれてしまいます。

『月雲の皇子』は、サヨナラ公演である『桜嵐記』も手がけた上田久美子先生の脚本・演出家デビュー作品であり珠城さんの初主演作で、珠城さんの宝塚人生の中でもとても大きな作品でもありますね。もしまだご覧になっていない方がいらしたら、是非ご覧ください!*7

「兄上、私は兄上を助けて、この美しい島を強い国にします!それが私の夢。必ず、お力になります!」

穴穂のこの言葉を受けて木梨が歌う「花のうた」、サヨナラショーでは当然この場面だけで終わるので、この木梨と穴穂は運命が分たれることのなかった二人なのかもしれないと感傷的になることくらいは許して欲しいのです。お力になります、という穴穂の言葉が真実になった世界に生きているのは、この世界のちなたまなのかもしれません。*8

 

M12この地上の何処かに『All for One』~ダルタニアンと太陽王

2号セリの真ん中板付きで登場の珠城さん(ダルタニアン)、セリは凸型で使われていました。この、両側に誰も乗っていないセリの真ん中にいる珠城さんを目にした時、両側のセリは宇月颯さん(アトス)と美弥るりかさん(アラミス)に用意されているんだなと直感的に思いました。

実は『All for One』に2号セリでダルタニアンを中心にアトス・アラミスで登場するシーンはありません。

ですが、三銃士ものであるこの作品は「まだ若いトップスターと仲間たち」という当時の月組の状況に合わせて描かれていたこと、また、ポルトス役は珠城さんより下級生の暁千星さんで現在も月組で活躍中のスターさんであることから、両隣の「今はいないけれど、かつてそこにいた」という風な空白に、上級生のお二人を特に想起したのかもしれません。

舞台上にはない風景を見ること、それこそがサヨナラショーの持つ特別さなのかなと思いました。

 

M13明日を信じて『All for One』~ダルタニアンと太陽王

続きまして同じく『All for One』から「明日を信じて」。

先日、東京宝塚劇場20周年記念の各組歴代トップスターの名曲を集めたBDの発売が発表されて、収録曲も既に公開されているのですが、そこに並ぶ作品は当然各トップスターさんの代表作でした。珠城さんは『All for One』、やはり代表作としてはこの作品なんだろうなと思いました。素晴らしい主演作をたくさん持っているのでファンとしては選び難いところですが、ダルタニアンの明るさ・素朴さ・清廉さ・真っすぐさ、それとフィジカルの強さ(笑)、この辺りが男役珠城りょうとしてのパブリックイメージのど真ん中なので選ばれるんだろうなあ、というのは納得します。

たとえこの世が闇に包まれていても

明日は太陽が昇り光浴びる

そう信じて人は生きる

陽の光は等しく当たる

こんな困難な世情で生きていると、歌い出しで否応なくハッとさせられてしまいます。この作品は現在の世情を反映して描かれたものではないけれど、普遍的でいい意味でありきたりで、でもそれを「今ここ」で届ける意味に胸を打たれます。

歌っている人は演技者なので、言葉がその人にとっての真実であれば、聴衆にもそのように届く、そんなシンプルなことで勇気づけられることがあるんだなぁと改めて感じました。

 

M14BADDY『BADDY―悪党は月からやって来る―』

前項で『All for One』が珠城りょうの代表作と言っておいて何ですが、最後は『BADDY』でしょう、そりゃそうでしょう。(あっBADDYだ!と気付いた瞬間の客席、たぶん3度くらい温度が上がりました)

「千秋楽ぅ?冗談じゃねえ!」*9

を合図にサングラスをかけたバッディが暴れます。みんな大好きBADDY!

「邪魔だ、どけ!」

縋りつく組子をひたすらに振り払い蹴飛ばす、先ほどまでの優等生らしからぬ珠城さん。爽快!いやーでも、みんな大好きなのをわかって最後に「BADDY」持って来るのはやっぱり優等生ですかね。

『BADDY』が大好き!と言っていた、上演当時は花組だったちなつさんがバッディの腕をとって自分に巻きつけてうっとりしてるのをペッて引き剥がすあり王子。なぜか光月るう組長は額の汗を拭いてくれようとしているし、夏月都副組長はバッディの頭なでなでしようといるし、その横でれいこポッキーはバッディに頭を押さえつけられてグリグリやられているし、右脚には海乃美月さんファニーが絡みついてるし、股の間からおだちんが這い出て来る。情報量が多すぎないか。

さくらスパイシーは何してるのかと思ったら、後ろの方で(行かないの?)ってやりとりに腕で大きくバッテンつくっていました。行かないらしい。

最後の1曲、ほぼサングラスをかけているので顔が見えないっていうのもわたし的にかなりツボです。

もう泣き笑い、というか、笑い、笑い、笑い。興奮が後を引きました。

まんまと思い通りなんだろうなと思いつつ、こんなにも晴れやかに面白おかしく終われるなんて思ってもみなくて、本当に「楽しかった!」の一言です。

 

 

これにて、わたしのサヨナラショーの思い出は終わりです。ファンの方の目のぶんだけ、サヨナラショーがあるんだと思います。

2021年に書く記事としては説明過多だとは思いますが、宝塚は意外と変化が激しく、当時共有していた情報や時代性なんかはあっという間に失われてしまうというのは、初心者でいろいろ見たり読んだりしているときに思ったことです。何年か後にここにたどり着いた誰かのためにも書きたいなと思いました。

サヨナラショーなので当然、退団公演である『桜嵐記』『Dream Chaser』からは楽曲がないので言及していませんが、まだご覧になっていなかったら超ラッキーなので観てください。よろしくお願いします。

 

 

 

 

*1:劇団直販分のチケット。生徒席含む

*2:劇団直販分のチケットは券面に印刷されているQRコードを端末で読み込んで入場する。読み込むとピロン!と音が鳴る

*3:ファミリーマートで発券したため緑色でした。プレイガイド販売分のチケットの入場方法は半券をモギる。

*4:愛希れいかさんの愛称

*5:トップスターのお披露目公演とは一般的に宝塚大劇場東京宝塚劇場での公演演目を指します。通常はトップスター就任後宝塚大劇場公演の前に主演作の公演が打たれますが、それをプレお披露目公演と呼びます。

*6:朴念仁!無自覚恋心ハンター!童貞!

*7:最下で出演している佳城葵さん(やすちゃん)演じるティコもすごい。演技は才能であることめちゃめちゃ感じてしまう

*8:これは「エモい」と言わずしてエモさを伝えようとしたあまりこのような表現になりました。

*9:各前楽では「天国ぅ?冗談じゃねえ!」